インスピレーションから作った、と自信を持って言える曲は、もしかしたら今でもこの曲だけかもしれません。
Lupeを結成してからほぼ初、と言っていいくらいの大作で、当時は「これはいい曲なんじゃないか!?」と大変に興奮していたのを覚えています。
今考えると、曲自体がまだかなり粗削りで、長尺の曲にしては少し単調な感じが否めませんが。
それでも、今でも個人的にとても好きな曲です(いつかちゃんと編曲し直したい)。
インスピレーション云々、というのにはわけがあって、この曲のサビフレーズはまさにズドンと落ちてくるように閃いたものだったからです。
それは、2018年のはじめ(か2017年の終わり頃)、就活も一段落ついて残った時間で何をしようかと考えていたとき、なぜか「一日中漫画を読んでいたい」と思い立って、地元の漫喫のナイトパックかなんかで夜通し漫画を読みふけっていたときでした。
そのとき読んでいた漫画のラインナップすべては忘れましたが、フレーズを思いついた瞬間に読んでいた漫画は覚えています。
石塚真一さんの『岳』という漫画でした。
そのころ自分は、同じ石塚さんが描いている『BLUE GIANT』というジャズの漫画に夢中になっていました。
その流れで石塚さんの過去作である『岳』という山岳救助の漫画にも興味を持ち、この機会に読もうということになったのだと思います。
そして、とにかく『岳』は掛け値なしに面白かった。
山という厳しい環境の中で、人の命がどれだけ脆いものか、人の本性がどれだけ弱く、狂おしいものなのか。
そういう哲学を石塚さん特有のド直球で見せてくる、熱い漫画でした。
その漫画の中に、「セントエルモの火」という自然現象がキーになっているお話がありました。
「セントエルモの火」というのは、もともと航海をするキリスト教徒の船乗りの間で作られた言葉らしいです。
嵐の中で発生した磁気が船のマストにあたると、まるでオーロラのような美しい光を発するといいます。
かれらはその光を、セントエルモというキリスト教における船乗りの守護聖人の加護であると感じたらしいです。
そして、海の場合とまったく同じ原理で山においても、嵐などの環境下ではピッケルなどの鉄製の道具と磁気が反応して、ごくまれにセントエルモの火が見れるのだといいます。
まさにそのシーンが『岳』の中に出てきて、自分はいたくそのシーンに心を奪われてしまったのでした。
詳しい話の内容は忘れてしまったのですが、雪山に突き刺さるピッケルにオーロラのような怪しい光が揺れるその一枚絵だけは覚えています。
そのときはモノクロ印刷(だったはず)の絵から、まるで映像のように光の色が見えたような気がしました。
感情移入してるときの人の想像力ってすごいですよね。
そして、St.Elmoという曲のサビフレーズがズドンと降りてきたのはその絵を見た瞬間でした。
そのときの感情を言葉で説明するのはなかなかに難しいので多くは語りませんが、生死紙一重の状況で頭に流れるメロディって、とても優しくて幻想的なものかもしれないな、なんてことを思っていたような気がします(実際頭の中に流れてきたのが優しいメロディだったので)。
漫喫なんていう現代のぬるま湯のような空間でそんなことを思うのはおこがましい気もしますが。
予想はしていたことですが、やはりこうやって裏側をつまびらかにすると、タイトルとか明らかに元のイメージをパクってきたことが丸わかりで恥ずかしいですね。
ちなみに、頭の中に浮かんだメロディってなるべく早く形にしておかないと忘れてしまうので、漫喫のトイレに駆け込んで小声でそのメロディを口ずさんで録音しておきました。
だからSt.Elmoはトイレで原型が産み落とされた曲です。